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大阪家庭裁判所 昭和41年(家)3804号 審判 1966年11月02日

申立人 中村鶴子(仮名)

相手方 中村和夫(仮名)

主文

相手方は申立人に対し

一、金三六万円を即時に

二、昭和四一年一一月以降申立人と別居している期間中毎月金四万円を毎月末日限り

いずれも申立人住所あて持参または送金して支払え。

理由

申立人は「相手方は申立人に対し、申立人および双方間の二児の生活費として毎月四万円を支払う」旨の審判を求め、その実情として、つぎのように述べた。

(1)  申立人と相手方とは昭和三〇年三月結婚し一男一女をもうけ平穏な家庭生活を営んできたが、相手方が同三八年頃から外泊するようになり同四〇年一月以降申立人ら家族のもとに帰らず宝塚市野上○丁目○○番地で伊藤京子らと同居して生活するようになったため、双方は別居したまま現在に至っている。

(2)  ところで、相手方は上記一月以来申立人および二児の生活費の仕送りを全くしなくなったため、申立人は生活費にも事欠き途方に暮れているので早急に申立人および二児の生活費を支払いを求める。

相手方は、本件調停および審判期日に一度も出頭しなかったが、(審判移行後六回審問期日を指定したが、そのうち三回の期日についは職務上差しつかえがあるとして欠席する旨通知があった)九月一三日の期日呼出しに対する同月一二日付回答書簡で、三井信託銀行に申立人および二児名義の額面合計金四〇万円の貸付信託預金があるから、申立人ら家族は生活に困窮していない、と述べた。

本件は、昭和四〇年一二月一七日に調停の申立があり、当裁判所調停委員会としては、相手方の職業・社会的地位と申立人ら家族の生活の現況にかんがみ、速かに実効ある解決を講ずべく調停をつづけたが、同年六月四日調停不成立として審判に移行したものである。

よって審案するに、調査の結果によるとつぎの実情が認められる。

(1)  婚姻生活の実情と別居の経緯

申立人と相手方とは、昭和二九年一二月、亡伊藤夫妻の媒酌で挙式の上結婚し(届出は翌三〇年三月一六日)、その間に長男孝一(同三一年一一月二九日生)長女正子(同三五年二月一九日生)をもうけ、円満平穏な家庭生活をつづけてきたが、同三九年夏頃から、相手方と伊藤未亡人との関係がもとで、双方の婚姻生活に風波を生じるようになり、翌四〇年一月相手方が旅行するといって家を出たまま帰宅しなくなり、その後同人が伊藤未亡人ら家族と同居するようになって、双方の婚姻関係は事実上破綻した。

(2)  申立人の生活状況と本件申立後の婚姻費用分担の実情

申立人は、上記のように同四〇年一月相手方が家を出たため別居するようになって以来、肩書住居で二児の監護養育に当ってきたが、相手方から生活費の仕送りはなかった。しかし、同年一一月頃までは、さきに購入した自動車の解約返還金三〇万円と同四〇年九月三日満期の定期預金一一万五、〇〇七円(利息を含む)を、申立人ら母子名の生活費に充ててようやくその生活をささえてきた。

ところが、その後依然として、相手方から生活費の仕送りがなかったため、申立人は、特別の稼働能力をもたない家庭の主婦として、家族の生計維持に困るようになり、ついに同四〇年一二月一七日当裁判所へ婚姻費用の分担を求める旨の申立をした。

そこで当裁判所調停委員会としては、直ちに本件申立を、すでに係属していた双方間の離婚調停事件(当庁四〇年(家イ)第二二四〇号同四〇年九月二九日申立、同四一年六月四日不成立により終了)と併合して調停手続をすすめてきたが、調停の経過により申立人ら母子の生活の困窮ぶりがうかがえたので、上記離婚調停事件の相手方代理人弁護士多屋弘同中村善胤の両氏を通じて、相手方に対し、生活費として毎月四万円を送金する旨極力勧告したところ、上記両氏の尽力もあって、相手方は、これをいれ、同四〇年一一月一二月および翌四一年一月分の各四万円を、代理人を通じて送金した。しかるに、同四一年二月以降の分についてはなんら特段の事情も認められないのに送金を停止したので、上記調停委員会においては、上記代理人を通じて幾度も相手方に対し送金方の勧告をつづけたが、相手方はこれに応ぜず全然送金しなくなった。

かくて、申立人ら母子の生活はいよいよ困窮するに至り同年三月頃からは申立人および二児の僅かな預貯金や知人・親族からの借金で、生計を維持してきた。そこで当裁判所は、同年五月四日、本件につき、申立人らの生活のため審判前に緊急の措置を講ずる必要があるものと認め、相手方に対し、「相手方は申立人に対し昭和四一年四月以降本件終了に至るまで毎月四万円を送金する」旨の仮の処分を命じた(同月六日告知済み)。しかし、相手方がこの仮の処分命令に任意に応じなかったので同年六月一日申立人からの申出に基づき、当裁判所は、当庁調査官をして上記送金の履行方を勧告させた。相手方は、当庁調査官から書面で三度勧告を受けながらこれに応じることなく、未履行のまま現在に至っている。

このように二月以降相手方からの仕送りが全く中絶したため、申立人は、家族の生活維持に困窮するあまり途方に暮れ、ついにやむを得ず同年五月頃から勤めにでたが、相手方の職業・地位を考慮して二、三転職した後、同年八月頃からいまの職場で月額一万数千円の収入を得ている。しかし申立人としては、家族の生活を守るためやむを得ず働いているものであって、勤務のため子の監護にさし障りがないとはいえないので、相手方からの仕送りがあれば直ちに子の監護にさし支えのない程度の軽い勤務にかわることを希望している。

なお、申立人の居住家屋は拭き掃除こそ行き届いているが、相手方との別居後、家屋等の修理保存に必要な経費がかけられていないため、壁戸障子畳表庭木などかなり荒廃している。

(3)  相手方の生活状況

相手方は、大阪○○会所属の○○としてさきに同会副会長の要職にもつき、現に○○業務に専念し業態(収入を含む)において同中堅層のトップレヴエルにあり、その資産としては相手方現住の土地・家屋および申立人現住の土地・家屋(なお同家屋は相手方弟名義となっているが実質的には相手方の所有とみるのが相当である)等がある。

ところで、相手方は、申立人ら家族と同居していた頃には、居住家屋の固定資産税その他の経費や相手方の洋服身の廻り品等の費用を自ら負担する外、家族の生活費として毎月額金五万円を申立人に手渡し、申立人において、これを家族の食費子女の教育費その他日常の経費に充てて家計を処理してきた。しかし、上記のように、別居後は昭和四〇年一一、一二月同四一年一月分の各四万円ずつを送金しただけで、その後、幾度となく履行勧告を受けながら全く送金していない。

(4)  相手方の主張する信託預金について

相手方は、申立人および二児名義の貸付信託預金が合計金四〇万円あるから申立人は生活に困っていない、と述べる。これにつき、申立人は申立人および二児名義で合計金三〇万円の信託預金があるが、これは主として申立人の婚姻前からの所持金(伊藤事務所から支給された退職金および同所に勤務中の預貯金等)をあてたものであると述べ、また、これからのけわしい生活を考えると、この預金だけは手をつけないで、子の将来の教育費に充てるため確実な預金のかたちで残しておきたい、と熱望している。

さて上記認定の実情その他本件の経過において知ることができた一切の事情によると、申立人と相手方とは法律上夫婦であるところ、別居して二年近くになり婚姻関係はかなり破綻しているけれども、その破綻が、双方の生活歴、生活感情、性格の相違等を考慮しても、主として相手方の婚外関係に基因することの明らかな本件において、相手方は、夫としてまた子の父として、申立人らに対し、自己の収入・社会的地位に相応しい程度の生活費を分担しその家族共同生活を維持すべき義務を負うこと明らかである。もっとも、相手方は、申立人ら名義の信託預金があり生活に困っていないから、申立人がその預金を費消するまで具体的に婚姻費用分担義務を負わない旨主張するもののようである。しかしながら、上記認定の実情によって明らかな、本件申立後の相手方の婚姻費用分担の状況(ことに本年二月以降月額四万円の送金を拒否していること)と申立人の生活状況(ことに現に当面し将来に予想される生活の不安定)にてらし、申立人が、上記程度の信託預金(申立人の特有財産であるか否かにかかわらず)を、二児の将来の教育費に備えて預金のまま保持しておきたいと熱望するのは、至極もっともなことであるし、また、申立人らが上記預金を保持することは、相手方の妻子としての社会的地位にてらし、ごく通常のことであるから、申立人らがこれを生活費に充て費消した後でなければ、申立人は婚姻費用の分担を求め得ないとか、相手方は婚姻費用分担の義務を負わないなどと解すべきなんらの理由がない。

そこですすんで生活費分担の程度・方法について考えるに、敍上認定の実情によると、相手方は申立人に対し、本来なれば申立人の希望額を上廻る生活費を分担して然るべきであるが、双方が円満に同居していた頃の婚姻費用分担の実情と申立人が現在のところ一応月額四万円程度を希望していることその他本件に現われた諸般の事情を考慮すると、昭和四一年二月以降毎月四万円を分担し、すでに履行期を経過した分については一括して本審判確定後即時に支払うのが相当である。

してみると、相手方は申立人に対し、婚姻費用の分担として、同四一年二月以降同年一〇月までの合計金三六万円を即時に、同年一一月以降は毎月四万円を毎月末日限り、いずれも申立人住所あて持参または送金して支払わなければならない。

以上の次第で本件申立を相当と認め主文のとおり審判する。

(家事審判官 西尾太郎)

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